‘16年 世界Boxing展望

　ゲンナディ・ゴロフキン(33=カザフスタン/米)対サウル・カネロ・アルバレス(25=メキシコ)のミドル級統一戦は実現するのか、混戦に陥ったヘビー級はどうなるのか、パッキャオ引退後の中量級戦線は――今年の世界のボクシング界の動きを予想してみよう。

　ふたり合わせて3億7000万ドル(約444億円)の報酬が支払われたフロイド・メイウェザー(米)対マニー・パッキャオ(比)のスケールには及ばないが、現時点で最大規模のイベントになると思われるカードはゴロフキン対アルバレスをおいて他にない。今年の最注目はこの黄金カードが実現するか否かといっていいだろう。

　ミドル級のWBAスーパー王座とWBC暫定王座、IBF王座を持つゴロフキンが15連続KO防衛を含む34戦全勝(31KO)の豪腕なら、2階級制覇を成し遂げたアルバレスは48戦46勝(32KO)1敗1分の若獅子だ。現時点で7対2の参考オッズが出ているように、実力ではゴロフキンが上だという見方が多い。しかし、集客力、人気ではアルバレスが上回っている。10月のゴロフキン対デビッド・レミュー(カナダ)戦のペイ・パー・ビュー(PPV=有料テレビ)の契約件数が約15万件に留まったのに対し、アルバレスは11月のミゲール・コット(プエルトリコ)戦で約90万件を記録している。このねじれ現象が両雄の対決のネックにもなっている。

　もうひとつ、下のクラスから上がってきたアルバレスには体格面のハンディキャップがあり、それが壁になって交渉は難航している。アルバレス陣営はコット戦と同じように155ポンド(約70.3キロ)の契約体重を要求。これに対しゴロフキン側は「同じミドル級王者なのだからミドル級リミット(160ポンド≒72.5キロ)で戦うのが当然」と主張し、譲る気配はない。両者の対戦を義務づけているWBCが間に入って交渉の手伝いをしているが、ひとまずは双方が防衛戦をこなし、あらためて9月の実現を目指すことになっている。ゴロフキンは3月か4月、アルバレスは5月初旬に次戦を予定している。この注目カードが9月に実現する可能性は70%程度か。

　ウラジミール・クリチコ(ウクライナ)がタイソン・フューリー(英)に敗れて混戦状態に陥ったヘビー級は、いわゆる“どんぐりの背比べ”になる可能性がある。タレントは思いのほか豊富だ。フューリーをはじめ35戦全勝(34KO)のWBC王者デオンタイ・ワイルダー(米)、26戦24勝(21KO)2無効試合のWBA暫定王者ルイス・オルティス(キューバ/米)、2度の戴冠を果たしたベテラン・サウスポーのWBA王者ルスラン・チャガエフ(ウズベキスタン/独)、これにフューリーとの再戦が内定しているクリチコも加わる。1月16日に行われるビャチェスラフ・グラツコフ(ウクライナ)対チャールズ・マーティン(米)の勝者も割り込んできそうだ。さらに同じ1月16日に3年半ぶりのカムバック戦を予定している元WBA王者デビッド・ヘイ(英)も復帰戦の内容しだいでトップ戦線に絡んでくる可能性がある。同じ英国にはアンソニー・ジョシュアという次世代の大型ホープもいる。ワイルダーへの挑戦を狙う元WBA王者アレクサンデル・ポベトキン(露)の存在も無視できない。1年後の勢力図が予想できないほどの混戦といっても過言ではない。最終的にはワイルダー対フューリー、あるいはワイルダー対ジョシュアというカードが大規模イベントになる可能性を秘めているといえそうだ。なお、現時点では以下のヘビー級の世界戦が決まっている。★1月16日@ニューヨーク(米)　WBCタイトルマッチ　ワイルダー対アルツール・ズピルカ(ポーランド)　IBF王座決定戦　グラツコフ対マーティン　★3月5日@グロズヌイ(露)　WBAタイトルマッチ　チャガエフ対ルーカス・ブラウン(豪)

　メイウェザーがグローブを壁に吊るし、パッキャオも4月9日の試合を最後に引退することで、ウェルター級トップ戦線は一気にふたつの核を失うことになる。IBF王者ケル・ブルック(英)、WBA王者キース・サーマン(米)、WBO王者ティモシー・ブラッドリー(米)、さらにスーパーライト級から上げてきたダニー・ガルシア(米)、アミール・カーン(英)、前IBF王者ショーン・ポーター(米)ら、ある程度の実績と知名度の持ち主は揃っているが、まだまだ核になる選手としては物足りなさが残る。どれだけの数の直接対決を組むことができるか、そして誰が生き残るのか注目したい。(2日に続く)