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レックス・ツォー(30=香港)のムーブメントでプロボクシング文化が花開いた香港は、これを機に文化の土壌を固める新段階に入り始めた。日本の渡邊卓也(28=青木)や後藤あゆみ(29=ワタナベ)がそれに貢献しているのはご存知かもしれない。では、その一方で、香港から高速フェリーで90分の位置にある特別行政区マカオもまた、プロボクシングの種まきが終わり、本格的な文化をようやく芽生えようとしているのはご存知だろうか。郊外に巨大カジノが建ち並ぶ「古くて新しい街」、マカオのプロボクシング事情に迫った。
村田諒太も参戦した2014年のベネチアン興行
マカオのプロボクシング史を調べると、2008年1月、中国本土のプロモーターによって興行が行われているのが確かめられる。それ以前はこれほどインターネットが行き届いた時代でも探索が難しい。ただ、2012年からは大きなターニングポイントが見て取れる。当時、アメリカでの経営で低迷していたトップランク社が「中国本土のテコ入れ」と「アジアにあるカジノ市場」の開拓を意識し、最初の拠点にマカオを選んだのだ。五輪を連覇する前からプロ転向を誘っていたゾウ・シミン(36=中国)、香港で細々とプロボクサー活動をしていたレックス、中華圏以外からもプロに転向して間もない五輪・金メダリストの村田諒太(31=現・帝拳)やイゴーリ・メホンツェフ(33=ロシア)を招き、この街で競演させたイベントを覚えているファンも少なくないはずだ。時にはアジアの至宝ことマニー・パッキャオ(38=フィリピン)まで起用され、会場のベネチアン・ホテルは、フィリピンからの来場客でパンクしたこともあった。
マカオがレックスを変貌させた
現在、トップランク社はアメリカでの活動を盛り返しているが、逆にマカオのカジノ市場自体が低迷。同社は暫定的にマカオから撤退している。しかしその試みが無意味だったわけではない。マカオ開拓の主役だったゾウは、中国の商都・上海で自主興行を行えるまでに化け、レックスも香港のスーパースターとして凱旋した。
マカオも決してもぬけの殻にはなっていない。本土の資本によって、今もボクシング興行の文化が残っており、今年1月、マカオで行われた王者・多田悦子(36=真正)対挑戦者カイ・ソンジュ(26=中国)によるIBF世界女子ミニフライ級タイトルマッチは、「旧正月」、「国営放送」、「日本人相手」、「王座奪取なら女子ボクシング史上初」という最高のシチュエーションもあって、視聴者数は4億に及んだ。日本の視聴率で計算すれば、300%を超えたことになるお化けのような数字だ。
マカオも決してもぬけの殻にはなっていない。本土の資本によって、今もボクシング興行の文化が残っており、今年1月、マカオで行われた王者・多田悦子(36=真正)対挑戦者カイ・ソンジュ(26=中国)によるIBF世界女子ミニフライ級タイトルマッチは、「旧正月」、「国営放送」、「日本人相手」、「王座奪取なら女子ボクシング史上初」という最高のシチュエーションもあって、視聴者数は4億に及んだ。日本の視聴率で計算すれば、300%を超えたことになるお化けのような数字だ。
スパー後に木村翔を撮影するチョン・ラッチョン
現在、マカオにはプロボクサーが3人いる。そのうちの一人、チョン・ラッチョン(21=マカオ)が先日、東京・高田馬場の青木ジムを訪ねた。目的は上海でゾウを11回TKOに追い込んだ現WBO世界フライ級王者・木村翔(28=青木)に胸を借りるためだ。スパーリングは、木村が赤羽根烈(18=宇都宮金田)と5ラウンドこなした後に2ラウンド。実力差よりも、まだ両国のボクシング史の差を感じさせる内容だったが、木村は「距離感はいいものを持っている。それを維持できるように、もっとテクニックを工夫して、もっと勇敢なハートを持てば、伸びていけると思う」とチョンに助言した。
木村が有吉会長とのミット打ちに入ると、チョンは急いでスマートフォンを持ってきて、熱心に撮り収めていた。
「木村の圧力は本当に強かったけど、日本に来てよかった。勉強になることが多かったからと話した」
ジムから出る際にそう語ったチョンの満足そうな表情が印象的だった。
木村が有吉会長とのミット打ちに入ると、チョンは急いでスマートフォンを持ってきて、熱心に撮り収めていた。
「木村の圧力は本当に強かったけど、日本に来てよかった。勉強になることが多かったからと話した」
ジムから出る際にそう語ったチョンの満足そうな表情が印象的だった。
来日したマカオの関係者たち
これまではアメリカ大陸を、様々な意味で「目標」にしてきた日本ボクシング界。一方で近年は中華圏から「手本」とされる兆候があり、すでに香港や中国本土では、日本人選手が招聘されるのに十分な資本が動くようになった。2年後、3年後に大成する可能性があるのはこちらであって、マカオはまだ、10年後にどうなるかで考えるべきだろう。未来を決めていくのは、経済成長はもちろんだが、どんな不況でも根気強くボクシング愛を持てる人間がいるか否か。日本はこれこそを手本として示せる国かもしれない。
「中国のシンデレラマン」こと木村
(追記)
※上海での世界王座奪取前から、中国の映像制作会社が追ってきた木村翔のドキュメンタリーが公開され、日本でもスマートフォンなどで観られる。億万長者となった元王者ゾウ・シミンとは対照的に質素な生活を続ける木村の生き方や夢がテーマとなっている。
※上海での世界王座奪取前から、中国の映像制作会社が追ってきた木村翔のドキュメンタリーが公開され、日本でもスマートフォンなどで観られる。億万長者となった元王者ゾウ・シミンとは対照的に質素な生活を続ける木村の生き方や夢がテーマとなっている。