■発表会見では、「世界チャンピオンとして、まだまだやりたいことがある」と。
堤 そうなんですよ。転べないので。転んだら終わりなので、怖いですよね。一つ落としたら、目標を語るところまで行けないと思うので、いつラストファイトになってもおかしくない。常にギリギリでやっています。負けたら次に進めないですもん。
■気持ち的にもそうなりますよね。
堤 世界チャンピオンという目標は叶えていて、ここからはどんどん挑戦できる。ボクシングを始めた時に「世界チャンピオンになります」と言って、実際に世界が見えてきてその心が確立されるまでに何年もかかるわけじゃないですか。最初から、何階級制覇をするとか、自分はそんな人間じゃないから。最大目標が世界チャンピオンだった奴がそれを獲ってしまって、たった1年で次のベクトルに完全に向かうわけではないので。
■その通りですね。
堤 僕も4団体統一という目標があるし、そこに向かって歩いているけど、まだ気持ちは移行期間。1年では固まれないんですよ。なので、そこを冷静に自分の状態がどうなのかを考えています。でも、やりたいことはたくさんある。王座統一はしたいし。実際、心の状況と、考えている目標が完全に一致していないというか。これも試合に勝って、そのステージに行ってどんどん固まってくるものだと思っています。焦らないことを大事にしています。
■先日、那須川天心vs井上拓真戦で拓真選手が勝ったら王座統一でやりたいと。以前は消極的でしたが。
堤 (拓真とは)今でもやりたくないですよ。目的が4団体統一なのでやらないといけないんですよ。やりたくないですよ!次の(自分の)勝ち目どうなるんですか?!今の状態なら次、やったらほぼほぼ勝てないぞと思っているので。
■そうなのですか?
堤 決まったら覚悟を決めますが。ベルトを持っている奴がいたら、やらないといけないんです。メディナ(クリスチャン・メディナ=WBO世界バンタム級王者)ともやらないといけないんですよ。対策を考えるだけで気が遠くなりますが。戦いたいとなると井岡さん(井岡一翔=志成)だなって。それは個人的な願望ですね。すごくないですか!自分が高校生の時に統一王者になっている人なので。世代がドンピシャなんですよね。
■では、試合への意気込みをお願いします。
堤 ハイリスク・ローリターンな試合になるでしょうね。結局、開き直らないといけないですから。スパーリングでも、気持ちが出てきていますが、そこだけで勝負していても先はないと思っているので、ボクシングの底上げをしているんですけど。毎回、話していますが、これで負けたら仕方がないというくらい仕上げていきますよ。次は長いラウンドになると思うので、集中を切らさず。いや〜、考えたくないですね(苦笑)。
■どうもありがとうございました。
「ボクモバの目」
取材を通じて強く感じたのは、堤聖也の"言葉の重さ"だ。「年齢を取るのではなく、重ねる」。「積み上げるのではなく、積み重ねる」。彼の発する一つひとつの言葉には、王者になってからの1年間で刻まれた責任感と覚悟が滲む。勢いではなく、経験と哲学を深く積み重ねてきたからこそ出てくる表現だ。今回のドネア戦はハイリスクでありながら、堤にとっては世界的スターと肩を並べるための重要な通過点。気持ちの移行期間にあると語りつつも、その目は確かに4団体統一へと向いている。この試合に勝てば、心のベクトルも大きく前へ進むはずだ。堤聖也というボクサーは、派手さではなく"深み"で強くなろうとしている。紙を重ねるように粘り強く、自分を厚くしていく王者が、歴史的な夜にどんな答えを出すのか。
<取材・構成/やすおかだいご>
<写真/YUSUKE・Bobby・AndStill>