そして、世界5階級制覇王者のプライドで11ラウンドのダウンから立ち上がり、最後まで左フックで逆転を狙ったドネア。レジェンドといえど年齢には勝てないと思い、かなり厳しい予想を立てた。ここまで万全に仕上げて井上を苦しめるとは思わなかった。厳しい予想を立てて本当にドネアには「ごめんなさい」という気持ちだ。
今だから正直に話すが、ドネアには強い思い入れはなかった。だが、この試合を通してドネアのことが好きになった。これからまだまだ活躍しファンを魅了する試合を見せてくれることだろう。
試合後、井上は2ラウンドにドネアの左フックを被弾して右目眼窩底骨折、右鼻骨の2カ所と骨折したことを発表した。ドネアの左フックの威力を物語っているが、二重に見えていた状態で誰にもバレることなく、冷静にポイント計算しながら戦い抜いたことを知り、あらためて井上のメンタルの強さ、ピンチに陥っても建て直すことのできる修正能力、そして打たれ強さを証明した。この試合を経てさらにさらに強くなっていくのは言うまでもないだろう。
これからも井上は、これまでに日本人が見たことのない景色をたくさん見せてくれるだろう。会場を後にする時、井上尚弥というボクサーの活躍を近くでずっと見ていきたいと固く誓った。
<取材・構成・写真/やすおかだいご>
<試合写真/太田>