そして、いよいよメインイベントが始まった。2人の主役がリングインする前に、冨樫光明リングアナが来場していた日本が誇る歴代のバンタム級世界王者、長谷川穂積氏、山中慎介氏、そして”黄金のバンタム"エデル・ジョフレ(ブラジル)を破った男、ファイティング原田氏を紹介し、会場のボルテージは最高潮に達した。世界チャンピオンとは特別な存在だと筆者は思っているので、こうしたセレモニーは世界タイトルマッチの際は毎回是非ともしてほしいと思う。
先にドネア、続いて日本ボクシング界の至宝、井上尚弥が登場。両雄がリングサイドボリュームに上がった時のWBSSならではの演出は崇高な美しさだった。
試合は、1ラウンドから日本刀で斬り合うような、一瞬の目も離せない攻防でお互いの左フックが交錯するたびに大歓声が巻き起こった。2ラウンドに右目をカット、9ラウンドにはドネアの右ストレートを浴びて初めてふらついた井上だったが、対応力の高さを見せた。試合終了のゴングが鳴り、超満員の観客がスタンディングオベーションで両者を称えた姿を見て鳥肌が立った。筆者の採点は116-111で井上だったが、採点を聞くまでは本当にドキドキした。
これまで、井上は筆者の予想をはるかに超える、素晴らしい試合を見せてきたが、このような死闘になるとはまったく考えていなかった。しかし、井上は良い意味で今回も予想を超えてくれた。ほとんどの観客が期待していたKO決着ではなかったが、濃密な36分間の渾身の打ち合いは判定でも面白いという、ボクシングの醍醐味が詰まった一戦だった。