■「復帰したらどうか?」という声もあったと思いますが。
井上 それこそ、出版社に入ってから出会う人が多くて。僕がボクシングをやっていたことを知らなくて、「もっと早く会って試合が見たかった」と言ってもらって。そういった方々に見てもらいたいなと思いました。そして、昔からのファン、父、出版社でお世話になっている社長さん。その方は、僕が入場曲にしている「バンドリ!」というアニメの原作を書いている方で。その方と尚弥さん、そして父の3人には最後まで「まだ続けてほしい」と言われていました。
■尚弥選手にも言われていたのですね。
井上 はい。「漫画は引退してからでも描くことができる。ボクシングは今しかできないよ」と。
■それでも心は動かなかった。
井上 自分は頑固なところがあるので。辞めると言った以上は決心は固かった。
■なるほど。
井上 昨年2月頃、尚弥さんの運転手を務めていたのですが、ジムでミットを持っている時期があって。「ついでに練習しなよ」と言われて。車の中で「もう一回やろうぜ」と毎日言われていました(笑)。
■熱いですね。
井上 引退後は入場曲にしていた「バンドリ!」も聴くことを避けていました。歌を聴くと思い出してしまいますから。その時に先ほど話に出てきた社長さんに「新作の映画が出たから見に行ってきなよ」と言われてチケットをいただいて新宿の映画館に見に行きました。見たら涙が止まらなくなってしまい、「もう一度やるしかないな!」と決心しました。映画を観終わってすぐに家に帰ってランニングを始めました。尚弥さんには「アニメを見て、やっぱりボクシングがしたくなりました」と話したところ、「俺が散々言ったのにアニメを見て復帰を決めるってアホか。ふざけんなよ」と(笑)。
■(笑)。
井上 しかし、会長に言わないといけないじゃないですか。会長に「復帰します」となかなか言えなくて。「(復帰しなくて)いいよ」と言われたらどうしようかと思ってしまって。尚弥さんから「会長に話した?」。「いや、言えない」というやり取りが2週間くらい続いて。僕が頼んだわけではないのですが、気を遣ってくれて尚弥さんがTwitterで「早く復帰してくれないかな。あの男まだかな」とツイートしてくれたのです。そのおかげで言いやすくなって言うしかないなと。会長に復帰したいと伝えたところ、「あれ、冗談じゃないんだ!大歓迎だよ!」と言っていただきました。
■久しぶりに本格的に練習を再開してからブランクは感じましたか?
井上 はい。スタミナもそうだし、足がついていかない。下半身を使ってパンチが打てなかった。なんとなく上半身の動きはできていましたが、下半身がすぐに疲れてしまっていました。復帰して4日経った頃、八重樫さん(八重樫東)の走り込み合宿に参加することになりました。「僕は復帰したばかりなので、半分くらいのメニューでいいですよね?」と聞いたところ、「選手を区別することはできないよ」と同じメニューを消化しました。なんとかやり切りました。それから2週間くらいで佐々木尽選手(八王子中屋)とスパーリングをすることになったのですが、そこで感覚を思い出しました。
復帰してから怪我をしなくなった
■ボクシングから離れて復帰した上で、プラスになっていることを教えてください。
井上 体のケアをしてくださる方、応援してくれる方などいろいろな人と出会うことができました。怪我をしやすかったので、体のケアをしてくださり、怪我をしなくなりました。動きやすくなりました。それと、まだわからないですがメンタルは強くなったかもしれないです。