[五十嵐-八重樫]2013.3.27
「ダウン奪った」発言の真相
ライバル意識ありまくりの両者
 4月8日の両国国技館でWBC世界フライ級王座をかけて大学時代以来、数年ぶりにグローブを交える王者・五十嵐俊幸(帝拳)と挑戦者・八重樫東(大橋)。長年のライバルとはいえ、五十嵐は4戦全勝を収めた上に、日本で唯一のアテネ五輪代表権も勝ち取ったので、明暗ははっきりしている。そのジェラシーもあるのか、八重樫のほうが、この戦いに並々ならぬこだわりを持ってきた。また、どうしても五十嵐を倒したい理由には、少し遅れたタイミングでプロへ転向した五十嵐が、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった八重樫について「合宿でダウンも奪った」と語ったことがあるという。今回は「八重樫ダウン」の真相を探ってみよう。

■日時:4月8日(月)
■会場:両国国技館
■お問合せ:帝拳ジムTEL.03-3269-6667
世界王座を獲った後も八重樫には五十嵐への苛立ちがくすぶっていた。
 八重樫が大学2年になったころの全日本合宿で、参加選手同士のスパーがメニューに組まれた。八重樫は3学年上の野口雄司(日大)とのスパーを希望したが、コーチの意向で、相手は、1学年下の元高校王者、五十嵐に決定。
 ここで、八重樫が痛烈なダウンを奪われた。というのが、五十嵐の話だが、八重樫も、ダウンを事実だと認めている。
 気がついたら天井を見ていた八重樫は、起き上がろうとしたとき、リング外である男の喜ぶ顔を見たという。
「正山さんが五十嵐に満面の笑みで、“ナイス!”って合図をしていたので、それで分かったんです。参謀はこの人だなって」

 ということで、八重樫の1学年上のスター選手だった正山照門氏に、今度は尋ねてみた。
 アテネ五輪出場を逃したあと、体調不良でプロ転向を断念した正山氏は、現在、地元福岡で会社員をしていた。そのかたわら、恩師である松隈圭造会長の主催する『ゴールデンボーイズボクシングクラブ』で、双子高校王者の沖島兄弟らを指導することも多いという。
 八重樫のダウンについて、同氏は懐かしそうに振り返った。
「八重樫は右足が後ろを向いていたりと、フォーム的にも体格的にも、“距離を取るサウスポー”を追う力に欠いていました。だから、五十嵐とのかみ合わせは最悪です。今でも大学リーグ戦のルールでやれば、高い確率で五十嵐が逃げきるでしょう」
 肝心のダウンについても、こんな証言。
「しばらく左を我慢して忘れさせておいて、ボディにフェイントをかけて思いきりスイングをしてみろと言ったんです。こんなシンプルな作戦でも八重樫はきっとパンチを追えない。そう思ったら、きれいに倒れましたね。多分、何をもらったか、分かっていないんじゃないですか」

 では、今回もその再現はありえるかと尋ねると、正山氏は、以後に積んだキャリアや成長以上に、プロ・アマのルールの違いで、優劣が大きく変わると読む。
「アマの試合は10オンスグローブのヘッドギア付きで3分3ラウンドですよね。これで八重樫をいなしきるのは、五十嵐にとって今でも難しくない。でも、世界戦は12ラウンドで8オンスですからね。採点方法も異なりますし。キーポイントは、最初に採点が公開されたとき、どちらがリードしているかではないでしょうか。五十嵐がリードをしていれば、焦って前に出てくる八重樫を五十嵐がコントロールしやすい。逆に、八重樫がリードすれば、五十嵐は焦って攻めてくる。五十嵐が前に出てくれば、八重樫の思うつぼです」

 10年前の合宿では、五十嵐にアドバイスをした正山氏。今回は八重樫に「顔を狙うと難しいから、ノドや胸、肩でもいいから当てていくべき」と提案し、勝ち予想は「どちらが勝ってもおかしくないが、しいていえば八重樫」と語った。