[ニュース]2011.2.16
金メダルと世界王座
 よく聞かれる質問に『アマとプロの違いは?』がある。このサイトをご覧の多くの方には釈迦に説法だが、アマは基本3分3ラウンド。プロの世界戦では12ラウンドの長丁場を戦う。これだけでも短距離走と長距離走ほどの違いがあり、身体の作り方や戦術も大きく違ってくる。一概には言えないが、同じボクサーファイターのタイプでも、アマはスピードとテクニックのボクサー寄り、プロはスタミナとパワーのファイター寄りの傾向が一般的だ。加えて、ルールや採点方法のほか、アマは少ないラウンドで防具を着用。プロよりも危険性が低いことで多くの実戦を経験することができる。
 大雑把に解説したところで昨年の日本人世界王者を見てみると、9人中、実に7人がアマチュアを経てB級でプロ入りしている。ここ数年でもずば抜けて多い割合だ。名前を挙げれば、石田順裕(金沢)、名城信男(六島)、内山高志(ワタナベ)、粟生隆寛(帝拳)、李冽理(横浜光)、亀田興毅(亀田)、亀田大毅(亀田)。さらに亀田兄弟を除けば、彼らの共通項はアマで50戦以上を戦っていることだ。今年に入っても、日本人最速の世界奪取を果たした井岡一翔(井岡)は、もちろんB級デビューでアマで105戦を経験している。
 かつて両者の間には大きな溝があった。アマにとってプロは、せっかく育てた逸材を奪うものとされ、プロとの交流を持つことも忌まわしく思われていた。だが、一昨年から状況が一変した。
 自身もアマ出身の世界王者である日本プロボクシング協会・大橋秀行会長が日本アマチュアボクシング連盟の重鎮(現会長)・山根明氏と会談し、ともに協力してオリンピックの金メダリストを育てよう、とする旨が双方で確認されたのだ。
 これには近年、プロが育成したキッズがアマで活躍するようになってきたことも背景にはあるが、このアマとプロの雪解けは、ともに協力し合うことで、競技人口の拡大、人材交流による技術の向上など、双方にとって大きなメリットがあることは紛れも無い事実である。
 世界的な動向で見れば、アマチュアの世界組織AIBA(国際アマチュアボクシング協会)が仕掛けるWSB(ワールド・シリーズ・ボクシング)では、出場するアマ選手に高額な賞金が出される試みも始まった。
 オリンピック金メダルと世界王座。目指す先は違うが、拳ひとつで頂点をもとめる心に違いはない。