挑戦者の参謀は日本人

　八重樫東(30=大橋)の持つWBC世界フライ級王座に挑戦するオスカル・ブランケット(28=メキシコ)は、5年前から日本人の古川久俊トレーナー(52)の指導を受けている。メキシコに渡って7年。挑戦者と一緒に来日した古川氏は「心中は複雑です」と表情を曇らせた。

　福井県越前町出身の古川氏は大学時代にキックボクシングと空手を経験。地元の高校教師になってからは生徒に請われてボクシングの指導もするようになった。清水智信(元世界フライ級王者)も古川氏の教え子のひとりだ。人生の大きな転機は7年前に訪れた。

　「ボクシングの歴史や技術などを突き詰めて研究していった結果、メキシコに行きついたわけです」――NHKの講座で基本的なスペイン語を学び、40代半ばでメキシコに渡った。父親から勘当されたが、自分の意志を貫いた。パンチョ・ロサレスジムで「リラ&ヒサ」というチームを構成して選手の指導にあたり、これまでにファン・カルロス・サルガド、アナベル・オルティス(女子)のふたりを世界王者に導いた。ほかにもフリオ・サラテ(バンタム級)やアントニオ・アギーレ(ミニマム級)など王者経験者10人以上のトレーナーも務めてきた。

　ブランケットとはコンビを組んで5年になる。愛弟子が夢をかなえる絶好の機会を得たわけだが、古川氏は「心中は複雑です」と明かす。「だって、チャンピオンになるために同胞を殴り倒さなければならないんですから。これがアルゼンチンとか他の国であればよかったんですが…少し、哀しいですね」

　古川氏は、まだ高校で生徒を指導していたころから八重樫の試合は見て知っている。「高校、大学時代の彼の戦いぶりが頭に入っています。最近は激闘型になっていますが、今度の試合では足で攪乱する本来のスタイルに戻してくるのでは」と予想している。試合まで4日。古川氏は迷いを吹っ切るように言った。「ブランケットが勝ってくれればそれに越したことはないけれど、大きなチャンスをもらえただけで90パーセントは満足です」
　八重樫コーナーの選択する策だけでなく、挑戦者コーナーの指示と戦いぶりにも注目したい。