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国際的なセミプロリーグワールド・シリーズ・オブ・ボクシング(WSB)へ、最強の一角、キューバが待望の参戦を決めた。キューバ・チームは、今年11月から始まる来季から参戦する予定。試合自体に金銭的な報酬が生じるいわゆる「プロ」へ、この国が関わるのは半世紀ぶりのことだ。WSBの取締役は「アメリカ、メキシコ、ドイツ、イギリス、アルゼンチン、カザフスタン、ロシア、ウクライナの争いにキューバが加わったことにより、WSBのチームは、世界全土の主なボクシング国に存在することになった。この競争は、レベルを大きく向上させるはずだ」と期待を抱いている。
キューバ国旗
キューバでは、チェ・ゲバラの盟友としても知られるフィデル・カストロ氏が、1962年にプロボクシングを禁止。それ以来、アマチュア専門のボクシング強国として、大きな旋風を巻き起こしてきた。社会主義思想の強いフィデル氏は、民主主義的なプロボクシングの世界観に、嫌悪を残している。一方で、2006年に政治を引きついだ弟のラウル・カストロ氏は、兄の確立した体制に、様々な改革を行ってきた。
首都ハバナの子供たち
キューバの労働者たちは、平均月給20ドルといわれている。そんな中で、WSB契約選手の月給は1000ドルから3000ドル。 加えて、シリーズに参加するボクサーは、毎試合で、500ドルから2000ドルのボーナスを獲得することができる。さらに、メジャー大会で金メダルを獲得した選手には、月300ドルまでの生涯、奨学金が付与される。現時点では、それがどの程度、選手へ渡るかは、明らかになっていないが、この待遇はキューバ人にとっては壮大。これは亡命への野心を少なからず抑える力にもなるだろう。
WSBはキューバのボクサーにどんなモチベーションを与えるか
2004年のアテネ五輪では、11階級中5階級を制したキューバだが、金メダリストたちに与えられるはずの報奨は、経済悪化で先伸ばしになっていたといわれている。その頃、トルコ系ドイツ人のプロボクシング・プロモーターが、メダリストたちとのコンタクトに成功。アテネを制した選手のうち、ヤン・バルテルミ、ユリオルキス・ガンボア、ギジェルモ・リゴンドー、オドラニエル・ソリスの4人が、アメリカへ亡命した。
主軸を失ったキューバは、2008年の北京五輪では準備が間に合わず、史上初の金メダル・ゼロを味わった。「ボクシング界のキューバ危機」といわれるこのできごと以降、AIBA(国際ボクシング協会)では、WSBを発足する以前から、キューバのトップ選手たちの確保に、執念めいたものを見せ始めていた。今年2月にもキューバへ出向いていたウー・チンクオAIBA会長は、今回の参戦に喜びを隠せずにいる。キューバ参戦を発表する際には、そのボクシング教育の優秀さを評価し、「5ラウンド以上の戦いも心配していない」とコメントした。
右がウー氏
WSBでは、今季が来月10日、11日に決着。準決勝を勝ち抜いたウクライナ・オタマンズとアスタナ・アルアンズが頂上決戦を争う。ワシル・ロマチェンコやオレクサンドル・ウシクなど、タレントぞろいのオタマンズの台頭も目を見張るものがあったが、過去に世界選手権で116個、オリンピックで67個のメダルを獲得してきたキューバが、来季は波乱を起こす可能性も大いにある。