元日本王者の田村亮一が引退を表明

　日本ボクシングコミッション(JBC)は、11日付で第42代日本ス―パーバンタム級王者の田村亮一(37=JB SPORTS)の引退を発表した。

　田村はアマチュア30戦17勝13敗を経て、2013年5月にプロデビュー。無尽蔵のスタミナと驚異的な打たれ強さを武器に頭角を現し、2019年1月に日本王座を獲得した。初防衛戦で敗れたものの、その後もトップ戦線で活躍を続けた。

　打たれても全く効いた素振りを見せず、そのタフネスぶりから「ゾンビ」のニックネームで親しまれ、会場を盛り上げた。

　昨年、最強挑戦者決定戦への出場が内定していたが、同年8月のノンタイトル戦で高橋利之(25=KG大和)に判定負け。その結果、ジムと話し合いの末に、最強挑戦者決定戦の出場を辞退した。田村は、「1年で1試合しかしていないし、実際、プロボクサーで生計を立てられていない。これではプロボクサーとは言えないのではないか」と、心境の変化を語った。

　モチベーションを上げるため、OPBF東洋太平洋王座やWBO-AP王座に狙いを定めたが、「チャンピオンの試合スケジュールや、これからアジアランキングに入って上げていくとなると、かなり時間がかかってしまう。一度、日本王座は獲っているので違うタイトルを目指したが、状況的に難しいことがわかった」と述べた。また、「この先、50歳まで続けたとして、『とりあえず、ボクシングをやっています』では、応援してくれる方にも失礼。今年でプロになって12年。そろそろ潮時かなと思っていた」と1年前から引退について考えており、今年8月の試合を最後にグローブを吊るす意向を固めた。

　「悔いがないかと言えば、嘘になる。しかし、それはボクシングに限らず、日常生活でも、『あの時にこうやっておけば良かった』と思うのはよくあること。ここで踏ん切りをつけて、自分で決めたルールを達成できたら、満足かなと」。

　DANGANプロモーションの瀬端幸男さん(DANGANジム会長)から、「(田村は)全然倒れないね。まるでゾンビのようだね」と言われたのをきっかけに、「ゾンビ」を前面に押し出した。「最初は嫌だったが、万国共通の言葉で、3文字で覚えやすいし、途中からは気に入った」。入場曲をマイケル・ジャクソンの代表曲「スリラー」に変更し(ミュージックビデオでマイケル・ジャクソンがゾンビと一緒に踊ることで有名)、覆面をつけて入場するようになった。

　「実際にパンチが効いたことはあったのか?」という問いには、「坂本さん(坂本英生=引退、2015年3月に対戦)との一戦だけですね」と答えた。続けて、「効くパンチは見えないところからもらうが、自分は他の選手より視野が広いから、パンチが見えているんだと思う。そして、『どうせ、相手のパンチを一発ももらわないことなんてないんだから。殴られても殴り返したらいいだろう』という心構えだった。パンチが飛んで来たら顎を引いて堪えていただけ。打たれ強いのではなくて、相手のパンチをもらう覚悟を持っていたから。現役中は誰にも話しませんでしたが」とカラクリを明かした。

　爆発的なパンチ力や、目を見張るようなスピードがあるタイプではなかったが、プロのリングで勝ち残るために考え抜いて、田村亮一のスタイルを構築していった。

　「JB SPORTSでやってなかったら、こんなに試合もできなかったし、タイトルマッチもできなかったと思う。自分なりに結果を出すことができた。本当に感謝しかない」と、所属ジムに感謝を伝えた。

　今後は、2015年11月から始めたアパレルブランド「オンスティーク」の規模の拡大を展開にしていく考えだ。「洋服も作るだけではなく、グローブにロゴを入れたり、応援グッズやノボリなど様々なものを製作している。これからはボクシング興行のお手伝いもしていきたい。ボクシングが好きなので、今後違う形で恩返しができれば」と熱く語った。

　リング上での激しいファイトとは対照的に、取材やジムでは常に礼儀正しく穏やかで、気遣いができる青年だった。選手としては頭の回転が早くクレバーな印象だった。これからの人生での活躍を心から願っている。