小関桃も「私のV17以上」と感激

「まだ心臓のドキドキが聞こえてくるんです。私が積みあげてきた防衛記録まで吹っ飛ばされたようなフィニッシュでした」
　試合後、新王者・木村の控え室で感激をそうとまで称えたのはWBC女子世界アトム級王座を17度防衛している同門の小関桃(青木)。だが小関はこうとも付け加える。
「上海に応援に来たのもこれが記念挑戦じゃなく、勝機があると思っていたからです。私もビッグマッチで名を上げるような勝ちかたをしたいと刺激を受けました」

　木村はWBOのアジア・パシフィック王座を保持している地域王者とはいえ、その存在感は日本国内の関係者にとってもまだ新しい。この一戦は日中のトップ選手が雌雄を決するというよりは、「別格」のゾウによる中国プロボクシング市場の開拓という様相が色濃く、日本国内でも、その予想はゾウ有利に集中していた。
　しかしそんな格差にチャンスを見出したいと言ってきたのは有吉将之会長。「8ラウンド以降に倒すことに勝負をかけていたが、目尻の傷が深いので、これ以上深くなったら止めると警告を受けた。本当にギリギリの戦いだった」と、男女両方で世界王者を抱えたことを嬉しそうに振り返った。

　当の木村はこの勝利の喜びについて「あまり実感が湧いてこない」とごもっともなコメント。目尻の傷にはやはり大きな危機意識を持っていたようで、応援に駆けつけた青木ジム関係者たちと記念撮影を続ける間も出血を気にしていた。試合の後半になってから、ようやく功を奏し始めたボディ攻めについては「もっと連打したり、顔までつなげるイメージを持って練習してきたけど、とにかくチャンピオンは距離感がよくて当たらないので追撃しきれなかった。ただ、今日勝つためにハードトレーニングを積んできたので、スタミナには余裕があった」と話している。

　ゾウは試合直後に行われる予定だった記者会見を中止。その一方で、会場で絶句した観客に向け、リング上から涙ながらに「私は負けましたがボクシングに興味をもってくれたのなら嬉しいです」とマイクで訴え、最後まで多くのものを背負った英雄であり続けた。