アムナットが今度はキックで来日

　リオ五輪にプロボクサーの出場が認められたことで、昨年、2大会ぶりに五輪出場をはたした前IBF世界フライ級王者アムナット・ルエンロン(37=タイ)が、今度はキックの試合で来日する。試合は大田区総合体育館で来月12日。

　とにかくアムナットの格闘技人生は波乱万丈だ。幼少期からタイの国技ムエタイで好成績を収めていたが、不遇の生い立ちから犯罪を繰り返し、服役生活を繰り返した。だがボクシングの才能が認められ「模範囚」として復帰。2007年には世界選手権で銅メダルを獲得した。その後に北京五輪とロンドン五輪を経験し、本来であれば不自由のない安定給を確保できたはずだが、複数の前科が妨げとなって、他のトップ選手のような公務員生活が認められなかった。

　年齢的にリオ五輪を目指すのは難しかったため、「最後にもうひと財産を稼ぐ」と目を向けたのがプロボクシングだった。持ち前の先行逃げ切りスタイルをプロ仕様に変え、無敗でIBF世界フライ級王座を獲得。井岡一翔(井岡)やゾウ・シミンといったスーパースターも退けた。

　ところがIBF年間賞の授賞式で、催しとしてジョンリル・カシメロ(フィリピン)との防衛戦を行ったところ、ここで痛恨の4回負け。ここからアムナットのキャリアはさらに二転三転していく。リオ五輪の最終予選は、WSB(ワールド・シリーズ・オブ・ボクシング)、APB(AIBAプロボクシング)、もしくは元来のプロボクシングで試合経験を持っていることが条件だったが、ここでタイ・ボクシング協会は、確保できていなかったライト級の五輪出場枠を得るために、アムナットに1勝100万バーツ(約327万円)の条件で出場を提案したのだ。これを引き受けたアムナットは、「増量で腹がだぶついている」と心配される中で予選に出場。イタリア人世界ランカーを破って3度目の五輪出場をはたした。

　本戦では銀メダルを獲得するソフィア・オーミア(フランス)に3回TKO負けだったアムナットは、帰国後、今度はムエタイに復帰。昨年末にビッグイベントの『THAI FIGHT』で復帰戦に勝利した。

　来月12日に開かれる『KNOCKOUTvol.1』で対戦するのはキック界期待の那須川天心。那須川も年末にMMAデビューを2連戦ではたし、天才18歳として脚光を集めているが、神出鬼没な才能に関しては、37歳の元模範囚、アムナットも負けてはいない。今回もクレバーな技術で日本人キラーぶりを発揮できるか。