1、2ラウンドを押さえる。それがシールズにとっても、勝利を手堅くする基本のパターンだった。ロッテルダム育ちの理学療法士である相手のフォンタインは、大きく上回った身長で、深い懐をつくり、フットワークを刻みながらジャブを打ってくるが、これをシールズはいかにもアメリカ人らしい膝の柔らかいクラウチング・スタイルでかいくぐっていく。その際にもちろん被弾もあったが、計画通りに3ラウンドまでを制し、40対36、39対37、39対37で貫禄勝ちを収めた。全米で最も危険な都市の一つであるミシガン州フリント。社会崩壊したこの街で、シールズは幼少期を過ごした。父は7年間の刑務所生活。アルコール中毒に陥った母親の恋人のうち、2人からシールズは性的虐待を受けた。そんな中で11歳の時、モハメド・アリ(1960年ローマ五輪ライトヘビー級金メダリスト)の娘、レイラ・アリがボクシングでパイオニア的活躍をしているのを観て、虐待への怒りはここに注ごうと思った。ボクシングはシールズにシンデレラ・ストーリーを与える。国際大会に出場が可能になった16歳から、いきなりシールズは、それまで世界選手権のトップを争っていたベテランたちを次々に撃破。17歳でロンドン五輪を制覇した。今回、リオ五輪を制した時点で戦績は77勝1敗と驚異的だ。「連覇の鍵は信念。昨夜は不安に押しつぶされそうになったけど、自分のハードトレーニングに自信を持って戦ったの」。そう振り返ったシールズは「たくさんのことを経験した私は、少しでも子どもたちに希望を与えたい」と語り、会いたい人には4ヶ月会っていない母を挙げた。