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[特集]2013.4.6

台頭する中国人ボクサーたち


 本日4月6日のマカオでは、世界戦2試合まで前座にして、五輪2連覇をはたしたゾウ・シミン(中国)のプロ第1戦が行われる。数年前には、五十嵐俊幸(帝拳)に2度完勝し、近年では、井上尚弥(大橋)にも「今は勝てない」と直感させた中国随一の天才。この一戦は、ロンドン五輪の金メダリストで初のプロボクシング戦(フライ級4回戦)にもあたる。ところで、ゾウに限らず、日本人の対中国代表戦の勝率はかなり低い。真っ向勝負をしかけ、それをヒット&ランでかく乱された負け越しが存在する。その打開の意もこめ、中国人ボクサーたちの資質を、初歩的な面から、おさらいしてみよう。
男女を問わず全階級で選手を派遣できるのも中国の武器

 スピーディなフェイント戦法で、世界の猛者たちを翻弄し、勝利後はジャッキー・チェンのようなフレッシュスマイルで、愛嬌を振りまく。そんな華のあるゾウ・シミンは、1981年生まれの満31才。日本では、アテネ五輪の世代にあたる。同世代でライト級の同五輪代表候補だった内山高志(ワタナベ)は、03年の世界選手権で観た頃の記憶から、「プロのルールなら、亀田スタイルで攻略できる気もする」と読んでいた。フェザー級の代表候補だった正山照門は、自身が戦うのなら「身体をくっつけてきたときに、腕を折るそぶりなどで、精神的なプレッシャーをかけたい」と言っていた。どちらも的確だが、現在のゾウは、すでにこうした戦術に対応できる実力も備えているようにも見える。
日本勢には手厳しい!?中国の応援団

 近代の中国人の気質として、ひとつ、発想の甘さが知られてきた。国家代表クラスの身体能力に関しては、いかにマイナー競技であっても、「13億人」という壮大な分母が脅威となるが、思考力については、同等のものは感じがたい。また、これは「遅れ」以上に「制御」。文化大革命や天安門事件という試練を経て、意図的に抑えこまれたものだ。もし、中国とメキシコの文化レベルを同等と仮定しても、ここでボクサーとしての性質に大きな違いが出る。メキシコ人は「ラテン」という爆発力を個々に持っているが、中国人は「集団」を成さなければ、爆発できないよう、厳重にコントロールされてきた。
なかなか攻略できない中国勢。だが北京五輪後はやや勢いが落ちた。

 こうしたコントロールとして、もうひとつ、暴動を起こさぬように、骨抜きされていることも挙げられるだろう。一方で「逃げる」という選択肢には、ためらいがないことも特徴だ。
 こうした傾向は、中国ボクシング界の最高傑作であるゾウにさえ当てはまってきた。ゾウの連戦連勝を知らなければ、日本の選手が模倣しても「見栄えが悪い」、「男気がない」と映り、古い指導者には「もっとオフェンシブになれ」、「正面で対峙する勇気をつけろ」、「ガードを下げるな」と叱られかねない。日本の教育からはゾウ・シミンは生まれづらい。
 
昨年はユースでも世界王者を誕生させた

 したがって今後、日本人が戦うことがあれば、意地でも接近戦へ持ち込みたい。北京五輪以降、一度も負けていないゾウだが、接近戦での才能は、一度も証明できなかった。村田諒太のように、良質にまとめたコンビネーションを、ゾウは組み立てることができるだろうか。
プロ転向後、タッグを組んだフレディ・ローチらが、いかにゾウを、アメリカナイズするかも、今後の出世に、影響を与えるだろう。
高度経済成長の中で中国は多くの大会のホストも引き受けている

 順調にいけば、最終的には、ローマン・ゴンザレスとの頂上決戦へ向かっていきそうなゾウ・シミン。その活躍を研究することは、国際大会での中国攻略にも、つながっていくはず。だが、それ以前に、天才のボクシングは、素直に楽しんでしまいたい。中国ボクシング史上最大のパイオニアによる新たな開拓は、開始のゴングを待つばかりだ。

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