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[現地特集]2016.1.30

何故いま中国か

 いよいよ本日30日、村田諒太(帝拳)の世界前哨戦を含めた『THE RETURN OF THE KING』が、中国の上海スポーツセンターで行われる。ここで一度はおさらいしておきたいのが、中国のボクシング事情だ。この国でのプロ興行は「ありそうでありえない文化」だった。
世界有数の国際都市上海
 中国が今以上に一直線な共産主義体制だった毛沢東政権時代、上海で試験的に行い始めたボクシング試合では、不運にも死亡事故が連発してしまった。
 これで「ボクシングは民主主義の生んだ野蛮なスポーツだ」と判断した政府は、その後、文化大革命の時期も含めて、長くボクシング禁止を貫いている。しかし、グローバル・スポーツとして見逃せない気持ちも根強く、79年にはトウ・ショウヘイがモハメド・アリ夫妻を招待。そこでアリにボクシング解禁を促されるなど、紆余曲折を経て、中国は1980年代、「五輪メダルの量産」の一環で、ボクシング文化を再開させた。
上海のカニ料理は有名
 最初の壁として、この国にはボクシングを強化するシステムがなかった。ひとまず共産主義のリーダーであるソ連を模倣すると、そこには「リーチの長い選手を重宝せよ」というクラシカルなマニュアルがあったといわれている。中国では、そのまま従おうとしたが、時々、「リーチは長くないが、抜群の身体能力を見逃せない」と惜しく感じる選手がいて、その代表例がゾウ・シミンだった。ゾウは2001年に大阪で行われた東アジア大会で銀メダルを獲得。以後は、北京五輪での金メダル獲得をクライマックスとして中国人初の快挙を連発していった。
村田は2005年に中国初遠征
 現在プロボクサーのゾウは、国営テレビのアナウンサーだった妻との間に2児を授かり、ドキュメンタリー番組でも注目度を高めている。現地のスポーツ記者たちは、その一方で「フィットネス感覚でのボクシング競技者は顕著に増加している」と口をそろえる。これは中国で不毛といわれたボクシングの理解度が高まった現れであり、政府もかつてほど国民の闘争心を去勢する必要がなくなったため、ビッグビジネスの可能性として、ボクシングに寛容になっているのも伺える。
ゾウの戦法には中国人の好みも割れる
 それなら、次の問われるのはゾウの試合内容だろう。しかしカザフスタンで革命的な活躍を続けるゲンナディ・ゴロフキンとは異なり、ゾウのボクシングはスペクタクル性に欠く。だが、この国民的英雄を通じて、世界が驚愕する2番手、3番手が台頭するのでも、プロボクシングは確かな文化として中国に根付くのだ。
報道陣に囲まれ続けるゾウ
 結局、ゾウが今も、競技そのものを背負っている。そして現代中国は、国民を団結させようとするポリシーを、ビッグビジネスの可能性を通じて見直し続けている。今回の大一番をそのひと幕として観戦すれば、いっそうの意義を感じられるかも知れない。

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